By Dr Chris Mansell, Senior Scientific Writer at Terra Quantum
ここ1か月で見た、量子コンピューティングと量子通信に関する興味深い研究論文の概要紹介を以下に。
Software
Title: An Improved Classical Singular Value Transformation for Quantum Machine Learning(量子機械学習のための改良型古典特異値変換法)
Organizations: Massachusetts Institute of Technology; University of Washington
量子特異値変換は、グローバーのアルゴリズム、量子フーリエ変換、ハミルトニアンシミュレーションなど、他の多くの量子アルゴリズムを統合する量子アルゴリズムである。研究者たちは、従来の最良のアルゴリズムを改良した古典的なアルゴリズムを考案した。このアルゴリズムは、量子アルゴリズムよりも多項式オーバーヘッドの分のみ遅くなる。彼らの 「量子インスパイアード」 アルゴリズムは、回帰、行列反転、Netflixのようなサービスプロバイダーが直面する、以前の行動に関する情報に基づいてパーソナライズされた推奨事項を提供するタスクなどの問題を迅速に解決することができる。また、性格の違う 4つの理論的なツールも紹介している。
Title: Towards provably efficient quantum algorithms for large-scale machine-learning models(大規模機械学習モデルのための証明可能で効率的な量子アルゴリズムに向けて)
Organizations: The University of Chicago; Chicago Quantum Exchange; qBraid Co.; SeQure; Argonne National Laboratory; University of California, Berkeley; Massachusetts Institute of Technology; Free University Berlin
現代のニューラルネットワークは、その規模の大きさからも目の覚めるような性能を示している。しかし、そのサイズは非常に多くのリソースを消費するため、より効率性を高めることが目標となっている。これを解決する一つの方法は、ニューロン間のいくつかの接続を切る(すなわち、削除)ことだ。これは、接続の重みを 0にすることによって行われ、ニューラルネットワークの疎性を高める。本論文では、非線形の散逸常微分方程式を解く量子アルゴリズムが、疎な古典的ニューラルネットワークのトレーニングを強化できると主張。著者らは、1億300万個のパラメーターを持つネットワークで自分たちの手法をベンチマークし、自分たちの主張を裏付けている。
Title: Quantum computing reduces systemic risk in financial networks(量子コンピューティングによる金融ネットワークのシステミックリスクを低減)
Organizations: New York University; University of Toronto
銀行間に存在する金融債務ネットワークは、破綻の連鎖を引き起こすことがある。一つの銀行が支払不能や資金不足に陥ると、他の銀行も同様の状況に追い込まれてしまいかねない。物理系で起こる相転移のように、また最近のシリコンバレー・バンクのケースのように、カスケードは度々突発的に起こる。十分な洞察力があれば、規制当局は銀行の相互保有を最小限に再配置することで、遷移が通常の状況では起こらないようにし、できるだけ稀な状況に限定することができる。しかし、これを現実的で効果的な方法として考えるのは計算上とても難しい。本論文では、人工的なデータと実際のデータに対して、古典と量子それぞれの分割アルゴリズムを比較。D-waveの量子アニーラによる量子アプローチを使用することで、金融システムが衝撃に対してより耐性を持つことを発見した。
Title: Exploiting Symmetry in Variational Quantum Machine Learning(変分量子機械学習における対称性の活用)
Organizations: Freie Universität Berlin; Porsche Digital GmbH; Fraunhofer Heinrich Hertz Institute; Helmholtz-Zentrum Berlin für Materialien und Energie
古典データを現在の量子コンピュータで処理することは、実用的であり、スケーラブルで有用な方法で行う必要があるため、とても困難な課題である。バリエーショナル・リアップロード法は一般的なアプローチであり、本論文では、表現論という極めて重要な数学分野である抽象代数学(群論など)と、線形代数を結びつける方法を組み合わせることができるかどうかを調査。2つの機械学習の問題について、対称性を意識したゲートセットを採用すると、汎化性能が顕著に向上することを発見した。また、同様に構成されたゲートセットが、バリエーショナル量子固有値ソルバーに適用された場合にも利点が得られることを示している。
Title: Quantum computation for periodic solids in second quantization(第2量子化における周期性固体の量子計算)
Organizations: Riverlane; Johnson Matthey Technology Centre
本論文は、結晶性固体内における電子の基底状態エネルギーを計算する量子アルゴリズムに関するものである。研究者たちは、周期的な物質の並進対称性を考えながら、電子同士の相互作用を表現するために、どのような基底関数を使うかを検討。そのアルゴリズムに最適なのは、ワニエ関数であることが示された。アルゴリズムは誤り訂正された量子コンピュータで実行する必要があるため、特定のタスクに必要な論理ゲートの数を慎重に見積もった。特に、既存の理論的手法では基底状態がほとんど記述されていない、酸化ニッケルと酸化パラジウムという2つの産業上で重要な触媒に注目。これは、触媒作用を改善することで化学プロセスに必要なエネルギー量を減らすことができるため、環境に配慮した目標である。
Title: Quantum Deep Hedging(量子ディープ・ヘッジ)
Organizations: QC Ware; JP Morgan Chase
本論文では、市場の摩擦や取引制約を考慮したデータ駆動モデルを利用して、ポートフォリオのリスクを低減するディープヘッジの実践が、量子コンピューティングによってどのように改善されるかについて 2つの問題を検討している。まずは、既存の古典的なディープ・ヘッジフレームワークが、量子ディープラーニングを使って改善できるかどうかに関して。次に、量子強化学習を使用して、ディープ・ヘッジのための新しい量子フレームワークを定義できるかどうかを研究した。
=============================
原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi