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コラム:困難な状況でも、英国政府は量子的成功のための資金提供を継続

By Carolyn Mathas


英国は量子技術で世界をリードしていると自負していますが、実際その通り。量子技術への取り組みの基本は、国家的な立場で取り組むこと。英国はアカデミアと産業界が融合した分野に強く、研究に資金を提供し、それを商業化した実績があります。最近は、コンピュータ工学の経験が少ない人の教育や、量子技術に不慣れな数学者やコンピュータ科学者の採用にも力を入れており、その成果が現れています。


英国研究・イノベーション機構(UKRI)は、80億ポンド(約1.3兆円)を超える予算を持つ、英国最大の研究・技術革新の公的資金提供機関です。UKRIは、7つの分野別研究評議会、リサーチ・イングランド、そして量子に関する産業チャレンジの拠点であるイノベイトUKで構成されています。


UKRIとは?


UKRIのQuantum Technologies Challengeは、産業戦略チャレンジファンドのもと2018年に発足し、1億7,300万ポンド(約280億円)の資金を受け取りました。これは戦略的な共同プロジェクトに、触媒となるよう助成金を提供するもので、そうすることで企業が大学と密接に連携し、互いに協力し合うことを促しています。


このコミュニティは3年間で、新しい企業を生み出し、新製品を発売し、数億ポンドの投資を集めました。その成功は、次のようなことにつながっています。


1.他国が模倣するようになったハブ設置。

2.純粋な大学での研究であっても、商業化の機会に結びつけている。


UKRIのDirectorであるRoger McKinlay氏は、次のように述べています。


「世界的に見ても、莫大な民間資本が流入しています。未来の量子コンピュータの構築を目指す新興企業のコミュニティは活気に満ちており、主に英国のアカデミックセクターから生まれ、優れた技術的研究を推進。これらの企業は、強固で信頼性の高いビジネスモデルを背景に、多額の投資を集め始めています。1年前と比較すると、量子コンピューター関連の新興企業への資金流入が増加しています。これは、政府の支援プログラムによる共同研究プロジェクトを通じてですが、投資会社の関心も高まっています」。


英国のCambridge QuantumとHoneywell Quantum Solutionsが合併し、世界最大の量子コンピューター企業「Quantinuum」を設立したことも、関心を高めている一因です。他の新興企業では、ベンチャーキャピタルからの関心が高まっており、政府の研究開発補助金と相まって、非常に若い企業でも急速に事業を拡大することが可能になっているようです。


英国の取り組みを米国と比較した場合については、McKinlay氏が以下のように述べています。


「米国には、あのようなハイテク大企業がいないので、少し状況が違うでしょう。英国では、民間投資家が勝つために必要なものに投資する自由を認めなければならないし、そうでなければ英国は魅力的ではなくなります。しかし、英国が標準に影響を与え、適切な人材を惹きつけるために必要なものに対して主権的なコントロールを得られるよう、公的にも投資をして席を確保する必要があるのです。これは難しいゲームであり、国ごとに異なるゲームです」。


UKRIの下、英国の努力は明らかに成功していますが、現在、その研究努力と研究者をどのように維持できるかは不確実です。


Brexit(EU離脱)の影響


英国の科学界の資金調達をめぐる嵐が吹き荒れています。Boris Johnson首相の退陣と、George Freeman科学大臣の辞任を背景に、両ポストは9月まで空き状態。経済的には、エネルギーコストの高騰が続き、他の国々と同様、40年ぶりのインフレに直面しています。


もちろん、大きな問題は、EUの旗艦研究プログラム「Horizon Europe」へのアクセスです。過去2年間は、イギリスとEUの間で取り決めがありました。この協定により、英国はHorizon Europeの準加盟国になることができたのです。英国の研究者は、EU諸国の研究者と同等の権利を得ることができました。

今後の交渉は、EUの一部であるアイルランド共和国と、英国の一部である北アイルランドとの間の国境の履行をめぐる英国とEUとの間の政治に基づいて頓挫しています。交渉が失敗した場合、何が問題になる点を以下に。


  • EUは、2027年まで「Horizon Europe」に資金を提供しています。これには、基礎研究のためのフェローシップを授与する欧州研究会議も含まれていて、英国の研究者は、総額約1,010億ドルの資金を利用できなくなります。

  • 直近で欧州委員会は、Horizon Europeの資金を獲得した英国の研究者による助成金を取り消し、EUは、英国の研究者がEU加盟国の機関に移籍することに同意する場合にのみ助成金を受けられると主張しています。これまでに、115人の申請者の助成金が取り消されました。

  • 英国の研究者は、独自の資金があれば、EU加盟国または関連国から最低3名の申請者がいるコンソーシアムに参加し、「第三国申請者」としてHorizon Europeの募集に応じることができます。英国政府は、2025年3月31日までに助成金契約を締結するコンソーシアムに参加するすべての適格な英国企業に対して、資金援助を行うことを決定しました。


交渉の失敗を踏まえた場合として、英国はHorizon Europeに代わる「Plan B」を策定し、「Supporting UK R&D and Collaborative Research Beyond European Programmes」と題する政策文書で詳細を発表しました。


英国は、Horizon プログラムからの離脱は、短期的には明らかに研究活動に支障をきたすため、離脱したくないと一貫して主張しています。例えば、オーストラリア、日本、インドなど他の国々と新たな関係を築き、共同研究を始めるには、多くの時間と労力がかるでしょうし、ヨーロッパ内の企業や国々との協力関係を維持することも必要です。


可能性が高いのは、新首相が着任するまで何も起こらないということです。着任後には、英国のHorizon accessの将来が発表されるか、あるいは英国の国際研究プログラム「Plan B」が進められることになるのでしょう。


このような不確実な中でも、英国は量子技術産業の主要なプレーヤーとなるべく、十分な位置につけています。いくつかの国が始めたばかりのことを、イギリスはこの2年間でやってのけたのです。成功のためのインフラは整っている、Horizonの不確実性が、英国の取り組みに波紋を投げかける可能性はありますか?


もちろんです。しかし、それはすぐに解決されるでしょう。

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