SEEQCは、超伝導量子ビットと SFQ(Single Flux Quantum)ロジックに基づく極低温制御チップを、超伝導量子ビットチップと同じマルチチップモジュールに搭載した 「SEEQC System Red」 と呼ばれる量子プロセッサのプロトタイプを開発した。この重要性を理解するには、超伝導量子プロセッサを、多数の量子ビットにスケールアップすることを困難にしている 2つの重要な機械工学的な課題を理解することが重要だ。
最初の課題は、制御と量子ビットの測定に必要となる膨大な数の制御線を扱うことである。通常、外部波形発生器からのアナログ信号を量子ビットの共振器に接続するには、1量子ビットあたり少なくとも2本または3本の配線が必要になる。今日の量子プロセッサーでは、波形発生装置は希釈用冷蔵庫の外に置かれ、技術者は冷蔵庫を貫通する特別な同軸ケーブルを使い、常温の外部電子機器とミリケルビン温度で動作する量子ビットを接続している。これは、数十、あるいは数百の量子ビットを持つプロセッサであれば問題ないかもしれない。しかし、数万または数十万の量子ビットを持つ場合はどうだろうか。何万本、何千万本もの同軸ケーブルを配線するのは無理があるだろう。
この問題を解決するために、Intel、Microsoft、IBM、Google、Raytheon BBNを含むいくつかの企業が cryoCMOS チップの開発に取り組んでいる。これは、制御電子を冷蔵庫の中に移動させ、量子ビットへの近接接続を可能にするものだ。Intelはこの点について最も公表している。今年後半に公開するプロセッサーで Horse Ridge II cryoCMOS コントロールチップ を使用すると予想される。このチップは、標準的な CMOSロジックを使用しており、通常2~3度ケルビンの温度で動作し、さらに下位レベルに配置されて、ミリケルビンの温度で動作する量子ビットチップに最短に接続される。
第2の機械工学的課題は、希釈冷凍機の限界だ。CMOSロジックは熱を放散し、冷蔵庫はその熱を取り除く一定の能力しか持っていない。発熱量が多すぎると、低温を維持することができなくなる。当然この問題は、より多くの制御を必要とする量子ビットを増やすほどに悪化するのだ。
ここで SFQロジックが登場する。SFQ は、超伝導ジョセフソン接合に基づくデジタル回路ファミリーだ。重ね合わせやもつれのような量子力学的原理に依存していないため、量子的量子ビットと混同することはない。SFQで作られた回路は、CMOSに比べて非常に高速で、消費電力も桁違いに少ない。また、量子ビットチップと同じミリケルビン温度で動作させることができる。SEEQC が使用している技術は、IBMが超高速メインフレームコンピュータの構築を検討していた 1960年代から 1970年代にかけて行った重要なジョセフソン接合研究に由来している。SEEQC は、SFQチップを量子ビットチップのすぐ隣のマルチチップモジュールに配置する予定であり、このアプローチは他の設計に内在する機械工学的問題のいくつかを解決するかもしれない。SFQの利用を検討しているのは、D-Waveのゲート型プロセッサ開発だけに留まっているのではなかろうか。
SEEQCはこのアプローチで、8量子ビットのモジュールをテストしており、現在製作中の64量子ビットまで制御可能なバージョンに取り組んでいる。いくつかの初期デバイスにおける性能指標としては、2量子ビットの平均ゲート速度が 39ナノ秒、平均ゲート忠実度が 98.4%というものがある。
この開発に関するSEEQCの発表はこちらのリンク から。
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原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi