By Andre Sariva, Diraq
4月3日に開催された Quantum Computing のイベント (映像はこちら) で、アメリカの ANSIやヨーロッパの IECと同様の非政府非営利団体、Standards Australia によって委託された Quantum Technologies に関する最初の2つのホワイトペーパーが発表されました。彼らは Quantum Computing (完全な形で利用可能) と Quantum Communications (現時点ではエグゼクティブ・サマリーのみ利用可能) の 2つのトピックについて語りました。内容的にも素晴らしく、権威ある読み物であり、さらに 2つのレポートが後日公開予定になっています。
発表イベントでは、量子コンピューティング研究の持続可能性と標準化の役割について、非常に興味深い点がいくつも挙げられました。
文脈を追うには、2023年現在の量子技術の状態を視覚化することが重要になるでしょう。オーストラリアは数十年前から量子通信と量子センシングで商業的な試みを行ってきました。さらに、Silicon Quantum Computing、Quantum Brilliance、Diraqなど、世界をリードする量子コンピューティングハードウェア開発企業の本拠地でもあります。このような状況では、標準はまったく異なる役割を果たします。センシングと通信における量子優位性はよく理解されていてテスト可能ですが、量子コンピューティングでは捉えどころがなく理論的なままなのです。
その後、このイベントに招待された専門家委員会 (あなたかもしれません) から素朴な疑問が。実用的な商業的応用のために、このような遠い将来の分野に基準を設定するのは早すぎるのではないですか?
この場にいた量子科学者と政策立案者、両者の一致した見解は、量子技術における用語の標準化はもっと早く行われるべきだったというものでした。標準は、政府や企業が量子市場の技術的な明確さの欠如を取り除く条文により、投資が保護されることを保証するための手段であるべきです。例えば、潜在的な量子の冬を乗り切るための重要なツールの 1つになるでしょう。
小さな NISQアルゴリズムによる量子的な優位性を高速でつかむことは実現できないかもしれないということが、世界中で認識されるようになってきました。これまでに開発された数学的に証明可能な唯一の有利なアルゴリズムは、フォールトトレラントに動作する数百万の量子ビットプロセッサに依存しているか、少なくともより深い回路に耐え、現在のものよりもはるかに高速に計算を実行できる量子ビットに依存しています。このようなマシンを作ろうとする試みは、金銭的な問題と同じくらいに科学的な課題です。
多くの即時リターンを期待し幻滅した投資家はその場を離れていくでしょう。量子企業にとっては、十分な資金と柔軟な投資をすすめる政府、または民間投資家から必要な投資を引き出すためのハードルが高くなっています。
このような余裕のない業界では、真剣に取り組む企業は「明確な品質基準」が担保されている場合にのみ差別化することができるでしょう。さらに税金は、主張の検証可能性と、量子操作の標準化された検証に取り組み予算化されなければなりません。最後に投資家は、契約した最初の要求と、実際に完成した製品の間の長い谷間の進捗を測定するための指標が必要です。
この問題は、 「量子ビット」 という言葉を定義するのと同じくらい単純かもしれません。ほとんどの科学者にとって、この世界が何を意味するのかについて特に議論はないでしょう。しかし、校正操作、初期化、読み取りのセットを持つ 2レベルシステムの標準パラダイムから外れてしまう多くの技術があります。例えば、断熱/アニーリング量子コンピューティング、連続変数、量子シミュレーションなどです。このような場合、「量子ビット」という用語の使用(乱用を含む)は、異なるベンダーが提供するものの間に文脈の違いによるズレを生んでしまう可能性があります。政府機関が 100量子ビットの量子コンピュータの入札プロセスを開始する場合、実際にその 100量子ビットが、最低限の認証された忠実度で目的としたことを行っていなければなりません。
基準を策定するための初期の努力は、学者によって自己組織化されました。量子コンピューティングの検証と妥当性確認(QCVV)の分野は、あらゆる科学会議でも活気に満ちたものとなっています。しかし長期的には、個人に頼ることが問題になるのは必至でしょう。これらのボランティアは、偏見がなく、特定の商業的な探究に無関心である場合にのみ、効率的な門番になるものです。しかし、巨大な人材ギャップが存在する世界では、量子スタートアップに科学者を参加させる経済的圧力によって、真に独立した QCVVの専門家が徐々にいなくなっているです。
グローバルな標準化の取り組み
国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)の合同技術委員会(JTC 1)が主導する情報技術規格ファミリーの下で、現在 1つの国際規格案があります。進行中のドラフト版は、現在コメントを受け付けています。この文書は、現場での語彙や用語の定義にとどまらず、表面をなぞったに過ぎません。この非常に単純な例は、量子ビット、量子プロセッサーなどの単純な用語が生み出す困難や商業的な摩擦をすでに強調しています。
ほとんどの標準化団体は、まだあまりに初期の ロードマッピング/ホワイトペーパーの段階にあります。以下はその例です。
The document from Standards Australia(オーストラリア標準規格)の文書(オーストラリアの状況に強く焦点を当てている)は、量子コンピューティングだけでなく、他の量子技術をカバーするために計画されたシリーズの最初のもの。
CEN-CENELEC から、最も先進的な2つの文書が発表されました。一つは量子技術のユースケースに特化したもので、もう一つは量子に関する標準化ロードマップ作成に焦点を当てたものです。
IECには独立した活動がありまるが、今のところホワイトペーパーを作成したのみです。
アメリカの QED-C が公開した文書の中には、量子コンピュータのコンパイルやプログラミングのための中間表現に関する非常に興味深い文書をはじめ、標準化の取り組みに関するものが多数あります(非会員には一部しか公開されていません)。
NISTは、これまでポスト量子暗号(PQC)の標準化に注力してきていますが、ホワイトハウスから量子技術のオープンスタンダードを策定するよう命じられた国家量子イニシアティブ諮問委員会にも参加しています。
最も野心的な計画の1つ、IEEEが主導しているもので、Project Authorisation Request(プロジェクト承認要求) を持つ多くの文書があるが、まだ最初のバージョンが利用できるものはありません。
標準化活動への批判
独立性・公平性
量子産業が急成長する中で、この分野で十分に影響力を持ち、公平である専門家を見つけ、広く評価され採用・規格を作成することは、ますます難しくなっています。政府は、産業界と協議しながらも、最終的には経済的に独立し、商業的利益ではなく、科学によって標準化を行うことができる独立した学者グループを維持するための資金を、量子構想に含める必要があるでしょう。
審議性
各国が主導して規格を制定しなければならない、という地政学的な圧力があります。しかし、この分野は生まれたばかりであり、量子市場は世界規模で見た場合にのみ持続可能なものとなります。したがって、標準化の取り組みは、量子産業があまり発展していない国でも、偏りのない議論を仲介できるかもしれないので、最終的には将来、消費者の意見を代表する能力を持つ国を含め、標準化の取り組みは国を超えて協議されるようにしなければならないのではないでしょうか。
理想としては、各国内において、産業界、学者、利害関係者、一般市民からのバランスのとれた規格への意見を得ることが重要でしょう。
正当性
おそらく最大の課題となるのは、尊敬に値する意見を持ち商業的利益に偏らない専門家を集め、一部企業(特に「緩い」科学基準を持つ)には不利益となるかもしれない大胆な標準化を行い、文書を作成するのに必要となる多大な努力を惜しまないことでしょう。
今後に向けて
まさにフォローアップは、量子コンピューティングに関心のある私たち全員にかかっているといえます。
第一に、プロバイダーと消費者の間で、標準化の価値を認識する必要があります。専門家に支えられた標準化が大事であり、すべての本格的な量産の取り組みを代表するものです。標準は、企業やユーザーの間で採用されるのと同じくらい有用です。
おそらくこれは、新しく設立された国際量子産業協会協議会の初期のターゲットになるのではないでしょうか。即時行動の必要性について、国際的な認識のレベルがまだまだ十分ではないことは明らかです。
もう1つの重要なステップは、量子コンピューティング・サービスと、ハードウェアの調達を担当する人々がこれらの微妙な問題を認識し、適切なサポートを見つけることができるようにすることです。ほとんどの入札は量子コンピューティングの技術的な複雑さを伴わないため、この種の複雑さに対応できる調達システムが用意されていることはないからです。
最後に政府ですが、一部の専門家が不偏不党であることを保証し、科学的事実よりも物語が支配的でないことを保証するために、必要な監視を実現する独立した機関に介入し、資金を提供する必要があります。
※著者紹介
Andre Sariva, Diraq:シリコンスピン量子計算やその他の量子技術における問題の理論的解決に10年以上取り組んできた。現在は、スケーラブルな量子プロセッサを開発するオーストラリアの新興企業、Diraq社の固体理論責任者を務めている。
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原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi
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