By Dr Chris Mansell, Senior Scientific Writer at Terra Quantum
ここ1か月で見た、量子コンピューティングと量子通信に関する興味深い研究論文の概要の紹介を以下に。
Software
Title: Robust Dequantization of the Quantum Singular value Transformation and Quantum Machine Learning Algorithms(量子特異値変換と量子機械学習アルゴリズムの堅牢な非量子化)
Organization: François Le Gall、Nagoya University
Ewin Tangは、Quantum Random Access Memoryモデルにおけるほとんどの量子機械学習アルゴリズムには、量子的な優位性がないことを示した。量子状態をサンプリングできる古典的なアルゴリズムも同様に優れた性能を発揮するということだ。しかし、François Le Gallは最新の研究で、量子状態のサンプリングを近似的にしか行えない古典アルゴリズムについて調査することに、より意味があるかもしれないと指摘している。彼は、新しい条件下でも、古典的なアルゴリズムが同じくらい速く動作することを発見した。量子特異値変換アルゴリズムや監視付きクラスタリングなど、6つの異なるアルゴリズムの古典版についても成り立つという。
Title: Universal noise-precision relations in variational quantum algorithms(変分量子アルゴリズムにおける、ノイズと精度の普遍的な関係)
Organizations: Osaka University; JST, PRESTO; RIKEN Center for Quantum Computing
この論文の著者らは、ガウスノイズの影響を受ける変分量子アルゴリズムのコスト関数の誤差を解析的に推定している。変分量子アルゴリズムのコスト関数の誤差について洞察を提供し、訓練可能性とノイズに対する耐性のトレードオフの関係を示した。また、スピン鎖の変分量子固有値解法と、変分コンパイルに関連する簡単な問題を数値シミュレーションし、その推定値を検証。また、新しいエラー緩和技術を設計し、そのコードをオンラインで簡単に利用できるようにしている。
Title: Density-Matrix Renormalization Group Algorithm for Simulating Quantum Circuits with a Finite Fidelity(有限フィデリティ量子回路のシミュレーションに対する密度行列くりこみ群アルゴリズム)
Organizations: Atos Quantum Laboratory; Université Grenoble Alpes; Cornell University; Flatiron Institute
この新しい論文では、量子コンピュータが有用なタスクと無用なタスク、どちらで従来の古典コンピュータを上回ることがより難しいかを問うている。彼らは、有用なタスクは現実世界に密接で、大部分が理解可能なものとして構造化されていることを指摘。古典的であれ量子的であれ、アルゴリズムはこの構造を活用しようと試みる。一方で、無意味なタスクは興味深い洞察を生み出す必要がない。そのため古典コンピュータにとって非常にシミュレーションが困難な、人工的に作り上げられた量子回路を設計する自由がある。「ランダムな量子回路」は、古典コンピューターでのシミュレーションは困難だが、この研究では、数100量子ビットまでシミュレーションできる古典アルゴリズムを開発した。このアルゴリズムは、従来の古典的アルゴリズムと比較して、量子ビット数に対するスケーリングが優れているが、より高い忠実度を持つ量子プロセッサをシミュレートする際に指数関数的な困難に直面している。
Title: A Framework for Demonstrating Practical Quantum Advantage: Racing Quantum against Classical Generative Models(実用的な量子優位性を実証するためのフレームワーク:量子と古典的生成モデルの競争)
Organizations: Zapata Computing Canada Inc.; Vector Institute, MaRS Centre; University of Waterloo; University of Toronto
最新の生成型AIモデルは、大量の画像データベースを閲覧し、オリジナルとしては存在しないが、同様のスタイルと適切な内容を持つ新しい画像を生成できる。このようなモデルは、よく汎化できると言われる。この汎化性能を数値的にテストするのは簡単ではないように思われるかもしれない。しかし、この論文の著者らは、まさにそれを行うためのフレームワークを提供した。具体的には、彼らは量子的生成モデルを古典的な生成モデルと比較する方法を示している。彼らは、モデルによってアクセス可能な合成データセットを作成。生成されたデータは、類似性を数値的にスコア化するコスト関数を使用して、元のデータと比較される。結果は、量子回路生成マシンが出力の多様性の点で競争力があり、限られたデータのみを提供された場合には、古典的なモデルよりも効率的であることが示された。
Title: Quantum-resistance in blockchain networks(ブロックチェーン・ネットワークにおける量子耐性)
Organizations: IDB-Inter-American Development Bank; LACChain-Global Alliance for the Development of the Blockchain Ecosystem in LAC; Quantinuum; Escuela de Ingenieria y Ciencias, Mexico
現在のブロックチェーンは、デジタル署名と暗号鍵に関連する重大なリスクに直面している。ブロックチェーンはデータを保存する分散型台帳であるため、「今すぐ保存、後で復号」の脅威(「今日ハック、明日クラック」とも呼ばれる)は特に深刻な懸念事項であり、データは既にすべて保存されているため、ハッキングする必要はない。この論文では、イーサリアムベースのブロックチェーンを量子耐性と堅牢性、拡張性を備えたものにするためのオープンソースのエンドツーエンドのフレームワークを開発することで、これらのリスクに対処している。このフレームワークには、エントロピーの量子ソース、ポスト量子証明書、ポスト量子鍵、トランザクションの署名、署名のオンチェーン検証が組み込まれている。この検証ステップを実行する 3つの方法がテストされた。具体的には、ソリディティ・スマートコントラクト、プリコンパイルされたスマートコントラクト、および Ethereum Virtual Machine のアセンブリ言語で記述されたコードを含むものだ。
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原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi