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2023年 6月の研究論文・ソフトウェア編

By Dr Chris Mansell, Senior Scientific Writer at Terra Quantum


ここ1か月で見た、量子コンピューティングと量子通信に関する興味深い研究論文の概要の紹介を以下に。



Software



Title: Efficient tensor network simulation of IBM’s kicked Ising experiment(IBMのキックされたイジング実験の効率的なテンソルネットワークシミュレーション)

Organizations: Flatiron Institute, New York University


この論文では、重六角格子上の127量子ビットのキックされたイジング量子系の、正確でメモリと時間の効率的な古典シミュレーションについて報告する。最近、このシステムの量子プロセッサ上でのシミュレーションが行われ、精度を向上させるためにノイズ緩和技術が使われた(『Nature』第618巻、500-505ページ(2023年))。この論文は、デバイスの量子ビット接続性を反映したテンソルネットワーク手法を採用することで、検証可能な領域において量子デバイスから得られる結果よりもはるかに精度の高い古典的シミュレーションが行われ、より大きな深さに対する量子シミュレーションの結果と比較可能であることを告げている。



Title: Interpretable Quantum Advantage in Neural Sequence Learning(ニューラルシーケンス学習における解釈可能な量子優位性)

Organizations: Massachusetts Institute of Technology; University of California San Diego; Harvard University


クラシカルな機械学習モデルを最小限に拡張することは、新しい量子機械学習モデルを作成する非常に実用的な方法である。経験的にこのことは、同じようなモデルサイズでテストを行うことができ、公平な比較が可能だと考えていい。理論的には、もし量子的な利点が見つかれば、それは導入された量子力学の特徴に帰すると言える。この論文では、線形再帰ニューラルネットワークが拡張され、測定演算子に明確な古典的値を割り当てられないようにした。これは量子文脈性(quantum contextuality)と呼ばれる。研究者たちはこの新しいモデルをスペイン語から英語への翻訳タスクに使用し、実際に有用であることを発見した。また、複雑性理論的な仮定をすることなく、量子文脈性が元のモデルよりも記憶面で有利であることを示した。



Title: Variational quantum non-orthogonal optimization(変分量子非直交最適化)

Organizations: Multiverse Computing; Donostia International Physics Center; Ikerbasque Foundation for Science


私たちは通常、量子ビットの直交する2つの状態を、古典変数の 0と 1を表現するが、もっと良い方法があるとしたらどうだろう?本論文の著者らは、量子ビットのブロッホ球に12面体を描くことで、この形状の頂点に位置する20個の非直交状態を20個の異なる古典変数の表現に利用できることを提案している。この提案により、現在のNISQプロセッサーは限られた数の量子ビットをより有効に活用できるようになり、より大きな問題に取り組むことができるかもしれない。彼らは、最適化タスクに必要な単一量子ビットのトモグラフィーを含め、このアイデアを古典的にシミュレートし、良好な性能を確認した。まだ取り組まれていない主な疑問は、このエンコーディングの利点がノイズの多い量子プロセッサーでも有効かどうかということである。



Title: How to compute a 256-bit elliptic curve private key with only 50 million Toffoli gates(わずか 5,000万個のトフォリゲートで 256ビットの楕円曲線秘密鍵を計算する方法)

Organization: PsiQuantum


楕円曲線暗号(ECC)は、古典的なコンピュータからの攻撃に強いため、広く採用されている。しかし、RSA暗号方式と同様に、Shorのアルゴリズムを実行する量子コンピューターに対しては脆弱である。昨年、フォールトトレラント量子計算への新しいアプローチが、フォトニック・プロセッサー向けに考案された。この論文でDaniel Litinski氏は、このアプローチに3つの改良を加え、ECCを破るために必要なリソース量を推定した。その結果、RSAを破るのに比べ、必要なリソースは約 10分の 1になると結論づけた。



Title: Quantum dropout: On and over the hardness of quantum approximate optimization algorithm(量子ドロップアウト:量子近似最適化アルゴリズムの硬さを超えて)

Organizations: Peking University; Shanghai Jiao Tong University; Collaborative Innovation Center of Quantum Matter, Beijing


充足可能性問題では、節(clause)は変数が満たす必要がある条件を指定する。問題の難易度が高まると、多くの節が存在する傾向がある。本論文では、満たされる節数を最大化するために、量子近似最適化アルゴリズム (QAOA) の数値シミュレーションを使用した。QAOAパラメータの更新を容易にするため、QAOA回路にいくつかの条項を含めないという巧妙なトリックを導入した。プロトコルの残りの部分は通常どおりに先行し、量子ビットは回路の最後で測定され、その結果は古典的なコンピュータで (すべての句に対して) チェックされた。この結果、標準的な QAOA に比べて成功確率が高くなった。



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原記事(Quantum Computing Report)

https://quantumcomputingreport.com/


翻訳:Hideki Hayashi

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