By Andre Saraiva, Diraq and David Shaw, GQI
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そして実験室での非アーベルの編込み
この技術を量子コンピュータ実現へと導くロードマップにするには、多くの課題があります。
これらの非アーベル状態は、依然としてランダムに生成されることに注意が必要です。また、非アーベル状態のターゲットセットを作成する (および偽のアーベル粒子を作成しない) には、さらに測定と操作が必要になります。しかし単純なインパクトとしては、これらの実験は非アーベル的行動の可能な限り直接的な観察、すなわち編込みを達成するのに十分でした。
3つの研究はすべて、これらの系における非アーベル的な編組動作の物理的顕在化の兆候を初めて示すことができました。これは、量子アルゴリズムの実装とコンパイルについて、大きな変化を起こすにというにはまだ時期早々ですが、量子アプリケーションについての考え方、そしてボロミアン環などの数学的な構造について、確かに未来を指し示しています。
このような状態を実用的なトポロジー的量子ビットに変えるには、量子ビットの状態だけでなく、どのようにして普遍的なゲート操作の集合を実現できるかを定義する必要があります。非量子ビット状態との間に十分なギャップを持つトポロジカル基底状態の縮退を維持しなければなりません。このことは、実際の固体系では見つけることが難しく、ノイズの多い従来の量子ビットでは維持がますます困難になるでしょう。
なぜこれが重要か
誤り訂正符号は、論理量子ビットの作成で実現します。誤りが発生する物理量子ビットを束ねてグループ化し、誤りを改善する論理量子ビットを作成するのです。そこで物理対論理の比率が重要なパラメータとなります。たとえば、一般的な方式では物理対論理の比率は 1000:1 。10万個の物理量子ビットを用意し、100個の論理量子ビットを提供すれば、実質的にエラーは発生しないことになります。
研究者はこれをできる限り減らしたいのです。1000:1 の比率ではとても効率がよいとは言えません。非アーベルエニオンを使用する利点は、トポロジカルな編込みによるエラーに、本質的な強さをもっているからです。そのため、物理と論理の比率を100:1、あるいは10:1まで下げることができ、量子コンピュータのコストと性能を1~2桁向上させることができるかもしれないのです。
次の目標は?
現在実証されている技術には、同じ「フィードフォワードとの闘い」という本質的な課題があります。フィードフォワードとは、中間で回路測定が実行され、この測定の結果に応じて量子ビットに対する新たな演算が呼び出される操作こと。この測定、処理、新しい操作の指示という一連のプロセスは、量子ビットがコヒーレントで、意味のある方法で絡み合っている必要があり、十分な速さが無ければなりません。フィードフォワード命令を実行できないことは、トポロジー的非アーベルl状態の研究を著しく制限しています。
Quantinuum は、フィードフォワード技術の世界的リーダーの1社。過去には、トポロジー秩序の構築にその利用を実証しています。しかし、非アーベル粒子の生成は、中間回路測定の結果に応じて多数の操作を必要とするため、フィードフォワードの要件を大幅に厳しくします。
理想的には、純粋に非アーベル粒子を作るためには、複数の回路途中の測定も有利に働くでしょう。測定を繰り返すことで、生成されるトポロジカルな特性の質を向上させることができるわけですから。1回の操作と測定では、優秀な Quantinuum システムでさえ、事後選択後の忠実度は98.4%にとどまりました。複数の エニオンを持つ十分に大きなシステムでは、これらの不確実性や、測定が理想とする状態の生成につながっていない偽のケースを取り除く必要があります。
最後に、量子計算を実用化するためには、フィードフォワードが必要なると考えると、このトポロジカル戦略は一つの希望となります。これは、D4構造が普遍的な演算集合につながることがまだ証明されていないためです。代わりとしては、循環S3群は持っていますが、実装においては、フィードフォワードを迂回する理論上なトリックに頼ることはできません。フィードフォワードは結局のところ、量子誤り訂正のすべての従来のスキームにおいて重要な要素なのです。
※著者紹介
Andre Saraiva:シリコンスピン量子計算やその他の量子技術における問題の理論的解決に10年以上取り組んできた。現在は、スケーラブルな量子プロセッサを開発するオーストラリアの新興企業、Diraq の固体理論責任者を務めている。Global Quantum Intelligence (GQI)のチーフアナリストを務める。
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原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi
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