Event: APS March Meeting 2023 (Live Portion)
Date: March 5-10, 2023 (The virtual portion of the meeting will take place on March 20-22, 2023)
Location: Las Vegas, Nevada
Estimated In-Person Attendance: Well over 10,000
全体的な印象
APS March Meeting は、物理関連の会議として最大規模のものである。あらゆる物理学のトピックが扱われるが、量子コンピュータ、量子通信、量子センシングの開発に多くの時間が割かれるようになってきている。DQI(量子関連)サブグループは、現在APS内で最も急速に成長しているグループの一つであり、現在3,300人の会員がいるようだ。量子に関するセッションは 200を超え、約3,000件の発表。全体では、気候科学、医学、生物物理学、量子情報、超伝導、凝縮物質などの新しい研究を網羅され、900以上のセッション、12,500のプレゼンテーションが行われた。応募された関連するプレゼンはすべて採用されるため、これほどの発表数になっている。
市場規模やアプリケーションといった、他の量子関連学会でよく見られるような発表はなく、参加者の多くは学生やポスドクなどで、学界中心のテクニカルなカンファレンスだった。
全体的な印象としては、ソフトウェアからアーキテクチャ、材料など、多岐にわたっているということだった。ほとんどのプレゼンテーションは 「人材募集」 と書かれた最後のスライドで終わり、誰も量子分野での活動を減らしている兆候はなかった。
主なトピック
特定のトピックやモダリティに関するセッションがたくさんあった。例えば、超伝導に特化したセッションが10、半導体量子ビットに特化したセッションが 6、誤り訂正に特化したセクションが 9あったなど。また、各セッションでは、1 セッションあたり 10~15件の発表があり、多くは 12分という短い時間に制限されていた。
注目の発表
量子に直接関係するものではないが、物理学のコミュニケーションの中でも一般のマスコミの間でも最も注目されたのは、ロチェスター大学による常温超伝導体に関するものであった。このプレゼンテーションへの関心は非常に高く、主催者はプレゼンテーションルームが定員を超えないように警備員を雇う必要があった。
カンファレンスで目にした中では、量子製品の発表はなかった。しかし、いくつかのプレゼンテーションには将来の製品に関するヒントが含まれていた。Quantinuumは、いくつかのプレゼンテーションで、近日発売予定の H2「レーストラック」プロセッサーについて言及した。H2 は 32量子ビット(おそらくそれ以上)で、ゲートゾーンは現在の H1-1の 5つに対して 8つあるという。量子ビットの忠実度は、現在の H1と同じ範囲であるとのこと。同社は、自社ラボでマシンを稼働させており、近々正式に発表する予定であることを明らかにした。
Intelは、ラボでテストしている 12量子ビットデバイスについてプレゼンテーションを行った。これまで、異なるシリコン同位体が混在する天然シリコン基板上に作られたデバイスで行われていたが、現在は、中性子スピンに起因する電気的・磁気的擾乱のない純度の高いシリコン28を用いたデバイスのテストが始まっているという。これにより、量子ビットのコヒーレンス時間が大幅に改善され、約4倍になると推定している。同社は現在、量子ビットに外付けの室温制御電子機器を使用しているが、近々、数ケルビンで動作するクライオ CMOSチップ「Horseridge 2」 に制御信号を移行する予定だ。Intelは、今年後半にスピン量子ビット設計の初期プロトタイプの公開を予定しているが、これは Silicon-28と Horseridge 2に完全移行後に行われるものと考えられる。
PsiQuantumは、彼らが使用しているいくつかのユニークな材料とデバイスに焦点を当てて、その取り組みについての詳細を説明した。最初は標準的な通信機器を使って開発を進めていたかもしれないが、現在は、単光子検出器や位相シフターなど、性能を高めるためのデバイスを開発しているようだ。また、99.996%のシングルゲート忠実度と、99.3%の 2量子ビットゲート忠実度を確認していることを明かした。
Diraq は、CMOS制御ロジックをチップ上に直接統合することを目標に、スピン量子ビットの取り組みについて発表した。彼らは現在、大学のファブで製造された 4量子ビットデバイスをテストしており、より大容量の Tier 1半導体ファウンドリに移行する努力をしていることを示した。最終的には、1つのモジュールに数百万個の量子ビットを搭載し、多数の個別プロセッサーのネットワーク化を行わずにスケールアップの実現を目指しているという。
IBM は、ハードウェア面では特に新しい発表はなかったが、深さ 60、127量子ビットの量子回路のデモンストレーションを行った。デモでは、Probabilistic Error Cancellation (PEC) とZero Noise Extraction (ZNE) と呼ばれるエラー軽減のために研究してきた2つのアルゴリズムを紹介。深さ60はなかなかなものだが、これは最近発表した 100×100チャレンジへの足がかり程度であろう。
取り組みの多くは、既存の技術を大きく改善するものだったが、中でも特に革新的だったのは、ルビジウム原子とセシウム原子の2種リュードベリ配列に取り組んでいるシカゴ大学の発表だった。ルビジウム原子とセシウム原子を市松模様に配置した中性原子設計についてで、ルビジウムのゲートコントロールがセシウムに影響を与えず、逆にセシウムのゲートコントロールがルビジウムに影響を与えないという利点があり、クロストークをほとんど発生させないという大きなメリットになる。また、種間ゲート操作を利用して、一方の種をアンシラ量子ビットに、もう一方の種をデータ量子ビットに利用する方法も紹介された。このことは、誤り訂正や、他のスキームに使用することができる。
多くの時間帯で、十数個の量子の発表が同時進行していた。そのためカンファレンスでは、興味を引く技術開示がたくさんあったのだが、膨大な数の論文が発表されたため、私はそのうちのほんの一部しか見ることができなかった。
出展者について
広い展示場には、部品やソフトウェアを提供する多くの企業がひしめいていた。物理学の、他の分野の研究するグループでも部品を提供しているところが多くあったが、量子分野の企業をターゲットとする内容が大きな割合を占めていた。エンドユーザー向けの会議ではないため、AWS、Google、Microsoft、Pasqalなどの量子ハードウェアプロバイダーや、Zapata、Strangeworks、QC Ware、Multiverseなどの量子ソフトウェアプロバイダーなどは参加していない。しかし、希釈用冷蔵庫を提供する企業や制御用電子機器を提供する企業は、展示フロアにブースを構えていた。
まとめ
APSは、この会議の後半を、2023年3月20日から22日にかけて行われるバーチャル会議として開催する予定だ。これには、対面式カンファレンスにはなかった追加のプレゼンテーションが含まれる。例えば、Intel は、Intel Quantum SDKの詳細について、3つのプレゼンテーションを行う。また、対面会議で発表された、ほぼすべてのプレゼンテーションが、2023年3月20日までにオンラインで公開され、6月30日まで視聴できる。会議に参加できなかった方も、特定のセッションに参加できなかった方にも配慮されている。
ジョブエクスポージャー、懇親会、ベンダーパーティー、ショートコース、ノーベル賞受賞者を招いた特別セッション、国家量子イニシアティブの最初の4年間を振り返る特別セッションなど、技術以外のセッションも充実していた。
量子技術の発表の多さには圧倒されたが、このカンファレンスで唯一不満だったのは、会場内の整備。多くの発表会場が立ち見で溢れかえっていた。さらに、セッションの合間には廊下が混雑し、コーヒーを飲むだけで30分もかかるような行列ができていた。このラスベガスの会場が、この会議に最適だったとは思えない。来年はミネアポリスで開催されるが、この種の会議にはもう少し適しており、参加者にとっても快適であることを期待している。
APS March Meeting で行われたすべてのプレゼンテーションと展示の詳細については、https://march.aps.org/ のWebページを。Scientific Session Search というセクションをクリックすると、発表されたすべての論文とそのアブストラクトを確認できる。また、Explore the Exhibit Hall というセクションをクリックすると、どのベンダーが出展者の確認が。また、Explore the Virtual Meeting というボタンをクリックすると、3月20日から22日にかけて開催される Virtual Meeting で何が行われるか紹介されている。
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原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi
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