By Carolyn Mathas
今回、Atom Computing と NREL(米エネルギー省国立再生可能エネルギー研究所)との間で、電力グリッドの運用をより効率的に最適化するため、量子コンピューティングを使用するための共同協力契約が締結された。
風力や太陽光などの新しい電力源の導入、電気自動車の充電など、広範なアプリケーションを含む電力グリッドの拡張における成長傾向は、古典コンピューティングモデルでは処理しきれないほどの複雑性をもたらしている。現在、電力グリッドのオペレーターは経験に頼ってグリッド最適化の意思決定を行っている。Atom と NRELは、量子コンピューティングがより最適な方法で決定できるかどうかを探求していく。
「電力需要は増加しており、電力源や電力のルーティング能力、スマートデバイスや充電ステーションの数も増えている。世界中が電動化しているのです。人間の意思決定を超える助けが必要」
と、Atom Computing の社長兼 CEOであるRob Hays氏は述べている。
「それが量子コンピューティングプラットフォームが統合される場所であり、エネルギーネットワークが複雑化しグリッドが高いエネルギーレベルに到達するところです」
と、彼は付け加えた。
直近での IEEE Power and Energy Societyの総会で、NRELの研究者たちは、Atomの原子アレイ量子コンピューティング技術が、研究所の Advanced Research on Integrated Energy Systems(ARIES)研究プラットフォーム および ハードウェア・イン・ザ・ループテストに組み込まれている様子をデモンストレーションした。この組み合わせにより、これまでにない「量子イン・ザ・ループ」の機能が生み出されている。
NRELの研究顧問である Rob Hovsapian 博士は、次のように述べている。
「私たちは、ループ機器内のコントローラ・ハードウェアによる デジタル・リアルタイム・シミュレーション(DRTS)エミュレーション機能を確立しました。これにより、制御された研究室環境で通信速度と同じ速さで通信プロトコルを含む実世界のデバイスをエミュレートすることが可能になります。現在、600台からスタートし、2024年末までに5,000台、最終的には1万台までスケールアップしたいと考えています」
「ARIES-DRTS に量子コンピューティングを組み込むことで、通信リスク評価や安全な通信の評価に対する堅牢な能力が生まれます。この統合はシステム全体のパワーと効果を向上させ、次世代のエネルギーシステムに対する貴重な洞察を提供します」
と、Hovsapian氏は続けている。
NREL の ARIESプラットフォームは、実際のエネルギーグリッドと、さまざまなシナリオをシミュレーションする能力を提供し、グリッド全体への電力配布に関する意思決定の可能性を探る。これは量子コンピューティングが、既存の ARIES プラットフォームに初めて導入されること。これにより、最適化問題を新たな視点で理解し、より総合的な解決策を得ることができるだろう。
このプロジェクトは、民間企業と国立研究所が量子コンピューティングの利用とユースケースの開発でどのように協力できるかを示す重要な例だと言える。はじめに NREL と Atom Computing は、変電所から地域のサービスエリアへ電力を運ぶフィーダーライン間で、スイッチやラインのダウンタイムが発生した場合の電力の再ルーティングに関する意思決定を、量子コンピューティングによってどのように改善できるかを検討する。検討されているケースは、グリッドにおけるエネルギー回収に迅速かつ効果的に取り組むことである。この取り組みは、将来の研究の基礎を築くために継続されることが期待されている。
Hays氏は、「すでに研究は始まっている」と述べている。もしパートナーが時々に価値を創造しているなら、この提携が無期限に続くだろうとも。
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原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi