Microsoftは、Azureサービス、HPC、AI、量子テクノロジーを活用し、特に計算化学と物質科学の発見を促進することを目的とした3つの発表を行った。CEOのSatya Nadella氏が述べているように、これらの取り組みの目標は、化学の250年を次の25年に圧縮することである。
最初の発表は、Microsoft が 「Azure Quantum Elements」 と呼ぶ製品で、HPC と AI を利用して特定の化学シミュレーションを 50万倍高速化するもの。このソフトウェアの重要なコンポーネントはGPT-4モデルで、量子コンピューティングと化学分野の追加データを供給することで強化されたものだ。創薬や材料開発における一般的な問題は、何百万もの化合物からなる潜在的なライブラリーから化合物をスクリーニングし、さらなる試験候補を見つけることである。Quantum Elementsはこの候補を見つけるために、 5万もの基本ステップを持つかもしれない複雑な反応における 150万の潜在的な分子配置をシミュレートすることができる。また、Aiida、Gromacs、NAMD、Scine、Lammps、NWChemなど、多くの汎用的な計算化学ツールもサポートしている。すでに、BASF、AkzoNobel、AspenTech、Johnson Matthey、SCGC、1910 Genetics などの初期ユーザーが、この製品を使用した研究に成功しており、開発の一環としてこの製品を採用していると述べている。
現在のところ、Quantum Elements は実際の量子コンピューターを使用していない。しかしMicrosoftは、より高性能の量子コンピューターが利用可能になれば、化学物質の予測精度を100倍向上させるだろうと予測している。同社は、6月30日から Quantum Elements のプライベート・プレビューを開始する予定だ。興味のあるユーザーは、このページで登録 することにより、プレビューに参加することができる。Quantum Elements の概要を説明したWebページはこちら 、Quantum Elements に関するビデオはこちら 、さらに詳細を説明したブログ記事はこちらのリンク から確認できる。
2つ目の発表は、Azure Quantum の Copilot と呼ばれるもの。この機能は、複雑な化学や材料科学の問題を推論するために、ユーザーが自然言語でコミュニケーションできるAIアシスタントである。量子と化学のトピックに関するチュートリアルを提供し、与えられた問題からコードを書くことができる生産性ツールだ。量子コンピューティングにおける最大の課題の 1つは、量子物理学や量子プログラミングのトレーニングを受けることなく、対象分野の専門家(この場合は化学者)が量子コンピューティングを最大限に活用できるようにすることである。この Copilot は、そのための新しいツールであり、生産性を大幅に向上させることができる。現在は無料で利用可能であり、上記の機能に加えて、組み込みコードエディター、量子シミュレーター、シームレスなコードコンパイル、クエリーおよび可視化データ機能が含まれている。こちらのWebページ から、Azure Quantum とともに Copilot の利用を申し込むことができる。
最後の発表は、量子スーパーコンピューターのコンセプト・ロードマップである。下図に示すように、6つの進歩段階を定義している:
[ MIcrosoft’s Six Levels of Quantum Hardware Development. Credit: Microsoft ]
Microsoftは、量子コンピューティングが商業的・科学的に広く利用されるためには、誤り訂正された多数の量子ビットが必要だと考えている。この目標に対する進捗状況を測定するために、彼らはrQOPS(Reliable Quantum Operations Per Second)と呼ぶ新たな指標を考案した。彼らの最初の目標は、論理量子ビットのエラー率 10-12で 100万 rQOPSを達成できる量子コンピューターを開発すること。その後、エラー率 10-18で10億 rQOPSをサポートできるマシンを構築することである。
彼らは昨年、上図に示した最初のマイルストーン 「マヨラナの作成と制御」 を達成し、その結果を報告するプレプリント論文を arXiv に投稿した。現在、この論文は査読を通過し、APS Physical Review B誌に「InAs-Al hybrid devices passing the topological gap protocol」 というタイトルで掲載されたばかりである。同社は現在、ハードウェアで保護された量子ビットを実証する 2つ目のマイルストーンに取り組んでいる。それぞれのマイルストーンにいつ到達するか、具体的な見積もりは示さなかったが、この開発には数年かかるだろうが、何十年もかかるわけではないことを示した。このロードマップについて説明したブログが公開 されている。また、マヨラナ粒子とトポロジカル・ギャップがどのように機能するかを視覚化するのに役立つビデオも投稿しており、こちらのリンク から確認できる。
そして、Microsoftは、これらの発表に関する同社幹部によるビデオ・プレゼンテーションと、その他のリンクやリソースを含むウェブページ を掲載した。
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原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi
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