こんにちは、blueqatの社長の湊です。今回はQuantum Business Magazineとして企業側の視点での量子コンピュータの取り掛かり方法について、これまで9年関わってきた立場としてまとめてみたいと思います。
量子コンピュータに興味はあるけど、どう参入していいのかわからない。情報を収集したい。企業として量子に参入した後はどうなるのか?などさまざまな課題と解決方法を提示していきたいと思います。
また、参入はしたけど、どうすればいいのかわからない。上司から詰められて大変などさまざまなシチュエーション別に解決方法を提示します。多くは技術的な内容とリンクしています。社内の立ち回り方法をイメージしながらヒントを得てください。
前提
現在主に世界中ニュースで流れている大学や研究所などの量子コンピュータのニュースは全て基礎研究の話です。企業が取り掛かる応用研究とは正直相性が良くありません。基礎研究の知識や技術と応用研究の現状や企業の現場への応用の違いについてを正しく理解することが量子技術業界で失敗しない一番大事なことです。
情報収集編
量子コンピュータのニュースを一般の新聞に類する媒体から得ることが多いと思います。先日もいらっしゃいましたが、新聞やテレビなどのメディアも量子コンピュータがあまりよくわからないまま発信しなくてはいけないので苦労しているといっておりました。実際には学術会の意見が大きく反映されますので、企業応用のニュースは少なめなので、情報収集時点では学術的なニュースが多いと思います。一方で企業の応用事例のニュースを正しく手に入れるのは結構苦労をします。本Quantum Business Magazineではそのような状況を打破すべく世界中の応用ニュースも併せて発信していますが、今度は内容がかなり高度であるというところが問題になります。
参入編
とりあえず言われて参入します。本などを購入して量子コンピュータを学び始めますが結構難しいので苦労をします。量子ゲートと呼ばれる方式は計算のプログラムをまともに会得するのに3年はかかります。一般的なデータ処理の部署や機械学習の部署が担当をすることが多いですが、結構中身が物理学寄りなので苦労をすることになります。量子アニーリングと呼ばれる方式のほうはあまり物理が出ないので、式を作って業務課題を当てはめるということに重点を置いており、量子ゲートでも組合せ最適化はまだまだ人気があり、業務課題をとりあえずさっと実装してみるというのにまだ一定の需要があります。
参入のコツは最終的に取り掛かりたい計算を明確にし、それ以外は検討をするも実行は後回しにし、優先順位をつけることです。多くの計算を一気にやることは全くお勧めできませんので、最低限を実行することをお勧めします。確かに量子技術は技術的に黎明期ですので、できることが限られます。しかし、業務ではこれを解決したいという業務課題があると思いますのでその目的を明確にする必要があります。ない場合には結構苦労をします。
量子化学計算で参入を希望する企業はVQEとQPEという具体的なアルゴリズムを学ぶ必要があります。また、利用するリソースも実機やシミュレータなどの種類がある程度決まっています。
金融計算で参入する場合には、利用する金融計算の種類によって大きく活用が変わります。きちんと利用したい計算を体系的に整理して適用するソフトウェアとハードウェアを選びます。
業務効率化では最適化計算を利用します。この場合にはアニーリングと呼ばれる専用機械を利用する場合と、ゲートを使って将来的な応用探索をします。前者は既存のマシンのシミュレーテッドアニーリングを利用し、後者は実機かシミュレータを使います。すぐにある程度の効果が出したい場合には、量子の定式化のみを覚えて、将来的に適用できそうな時期を見極めながら限定的に取り掛かるのが良いと思います。
AIについても多くの企業が取り掛かっています。それらAIの適用範囲を明確にして、利用する実機やシミュレータを考察します。
どちらにしろほぼ現在のマシンでは企業が満足する計算結果を得ることは全くできません。そのため期待感が大きいまま参入するとその性能の低さにびっくりすることがあります。だいたいその場合、こんなものかと諦めるか自分たちの使い方が間違っているから外部の協力を得ようという形になりますが、選択先を間違えるとより悲惨な結果へと向かいますのでその点も自己防衛が必要です。
しかし最近はそれでも将来的なことを考えて活用するという企業も増えていますので、細く長く続けるという進め方が重要です。
継続編
ある程度取り掛かる部分を決めて検討を進めた結果、あまり量子の計算の応用が見つからない。もしくはこれ以上どうすればいいのかわからないという状況に陥ることがあります。よくある相談です。この場合にはいくつかの方針転換が企業の事情によって考えられます。
1、アニーリングをベースにとりあえず一番問題サイズを大きいのといてある程度終わらせる。この場合には業務効率化や最適化についてアニーリングで問題サイズの大きなものを実行し、将来的な量子の定式化といったところを社内に根付かせるところを最優先します。その後規模を縮小するなどします。
2、量子技術を応用した機械学習を実行する。機械学習をハイブリッドで漁師と組み合わせることである程度成果が上がるような研究開発もすることができます。これは結構上記に近い形ですが、必ずしも最適化問題だけではないので応用範囲が広いです。
3、情報収集に戻る。応用はある程度まだ時間がかかるという結論に達しつつも量子そのものは研究開発を継続したいという方は情報収集に戻ることをお勧めします。月1、2回程度定例でみんなで量子技術に関しての情報交換を行います。本Quantum Business Magazineはそのような利用方法にとても適しています。
4、とりあえず淡々とjupyter notebookで最新のソフトウェアを解いてみる。あまり応用に期待せずに淡々とpythonベースの量子アルゴリズムを毎月一定量を会社で実行していきます。
5、とにかく根性で最新技術にキャッチアップして頑張るという方もいます。これができるうちはまだまだ平気です。
6、撤退を考える。時期尚早という結論を出して撤退もあります。1、2番のようにある程度の計算をして見切りをつけるというのも企業としては大事な行動です。量子の撤退を考える企業はとても多いので、ある程度検証したら特に大きな行動を起こさずソフトに撤退し、また盛り上がってきたら参入準備をできるようにしておくというのでも十分間に合うと思います。
撤退
撤退に関しては、機械学習やChatGPTなど現在は多くのテーマがありますので、そのような分野に限られた予算を割り当てる企業も増えているようです。これは日本に限らず全世界的な流れです。基礎研究と応用研究は異なります。これまで多くの企業が量子技術に取り掛かってきました。現在は基礎研究が強い期間ですので、無理に応用研究をしなくても良いとも考えられます。撤退自体は結構される企業は多いので、別段特別なことではありません。また時期がくれば参入すれば良いので、年度末など企業の区切りに合わせて再編をする際に考慮するのもありです。
まとめ
企業が量子技術に関する調査や参入が相次いでいる一方で、早期に参入した企業が方針転換や縮小、撤退などを考えるパターンがとても増えています。入れ替わりの時期とも言えますので、スムーズな移行を心がけ心機一転新しいことに挑戦して事業を遂行していきたいものですね。ぜひ参考にしてみてください。以上です。