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IBM、433量子ビット Ospreyプロセッサ、追加機能、100×100チャレンジを発表

先日(11月9日)開催された恒例の IBM Quantum Summitにおいて、量子技術およびその量子ネットワークにおける新たな進展について、いくつかの発表を行った。中にはロードマップ、技術論文、プレスリリースなど、その他の場で以前に言及されていたものだが、その詳細が発表されている。



IBM 433 Qubit Osprey Processor


同社は、2020年9月の長期ロードマップで初めて Ospreyプロセッサに言及し、当初のスケジュール通りに発表されている。このマシンの主な目的は、量子ビット数をスケールアップするために必要な新しい技術を導入することである。導入される技術には、量子ビット制御信号をより効率的に伝送するためのクライオ・フレックスケーブルが含まれている。この新しいケーブルにより、配線密度が70%向上し、1回線あたりの価格が5倍削減されるという。また、より多くの量子ビットを扱うために、FPGAを用いた小型で高速な新世代の制御電子回路を開発し、動的回路のサポートとCLOPSの向上を実現した。下の写真にあるように、物理的にかなり大きなチップで、IBMが 127量子ビットのEagle(ibm_washington)デバイスで導入した3次元実装技術などの工夫を引き続き採用している。


[ Picture Showing the Relative Sizes of Several Generations of IBM Quantum Processors. Credit: IBM ]




[ Picture Shown Exploded View of Osprey Processor Showing 3D Packaging. Credit IBM. ]



[ Previous Generation Coaxial Cable Wiring (Left) and New Cryoflex Cabling (Right). Credit: IBM ]



IBMがこの開発で重視したのは、量子ビットの数をスケールアップするために必要な主要技術を導入することだ。とは言え、量子ビットアーキテクチャの多くの要素は、Eagle(ibm_washington)デバイスで使われているものと類似しており、2019年に導入された IBMの Quantum System Oneパッケージが引き続き使用される予定である。 Ospreyは、2023年 第1四半期に IBM Quantum Networkのメンバーに提供される予定になっている。デバイス R1(現在のバージョン)は、T1 コヒーレンス時間が 70~100マイクロ秒の以前の世代と同様の量子ビット品質メトリックを備えている。R2と呼ばれる Ospreyの次のリビジョンでは、27量子ビットのFalconデバイスの一つで最初にテストされたコヒーレンス時間に関していくつかの改善が組み込まれ、コヒーレンスが2〜3倍に改善されるという。しかし、ゲート忠実度が前世代から大幅に改善されるとは予想しておらず、OspreyプロセッサがIBMのQuantum Volumeメトリックでより高いレベルを示すとも考えていない。これらの改善は、2023年に導入が予定されている次世代プロセッサ「Heron」では、重要な焦点となるだろう。



New Quantum Volume and CLOPS Measures Achieved


開発の一部では、革新と改善をテストするために前世代のいくつかを使用する予定であり、これは今回発表された Quantum Volume と CLOPS (Circuit Level Operations per Second) の新レベルも例外ではない。彼らは直近で 27量子ビットの Falconデバイスを使用してこれらの改善をテストしており、現在、512の量子ボリューム測定と 15.7KのCLOPS測定に到達している。CLOPSの向上は重要で、当初1.4Kでスタートしたものが、今年は10倍以上となる向上を示している。



エラーの抑制と軽減


度々指摘しているように、量子コンピュータの有用性の限界の1つは、現世代マシンのエラーレベルである。IBMはこれらを抑制するためにある技術を導入した。エラー抑制には、ダイナミックデカップリングと呼ばれる手法を用い、デコヒーレンスとクロストークを低減するように制御パルスを変調する。幾つかの手法でより正確な答えを出すために、様々なアルゴリズムを使用する必要がある。IBMが採用しているのは、「ゼロノイズ外挿」と「確率的エラーキャンセル」と呼ばれる2つのアルゴリズムだ。これらのアルゴリズムに関する詳細は、IBMの2つのブログ記事(こちらとこちら)を確認してほしい。


複数のアルゴリズムを使用することのトレードオフは、答えを出すまでに何度も反復する必要があるため、ジョブ全体の実行時間が大きく増加する傾向があることだ。つまり、ユーザーは精度と実行時間のトレードオフを選択しなければならない。IBMでは、これをよりシンプルにするために、エンドユーザーが緩和の度合いを指定し、ソフトウェアが自動的にそれを実施するような簡単なコントロールを実装してる。この制御はレジリエンス・レベルと呼ばれ、0(緩和アルゴリズムなし)から3(最大緩和アルゴリズム)まで設定でき、レベル1と2はその中間に位置する。



ダイナミック回路


また、2022年の IBM Quantum Summitで、ミッドサーキット測定とも呼ばれる動的回路を利用可能にする意向を明らかにし、現在18のシステムで利用可能となっている。この機能により、ユーザーは量子ビットを測定し、その結果に応じてコードの分岐を取ることができる。その後、測定された量子ビットをリセットし、プログラムの後半で再利用することができる。これにより、回路の深さを減らしたり、アルゴリズムの実装に必要な量子ビットの数を減らせるようになる。この機能はまだ新しいものなので、利用したユーザプログラムはあまり目にしていない。 今後、量子ビットの誤りを検出し、訂正するための誤り訂正技術が実装されれば、この機能はさらに重要になるだろう。今現在、QiskitだけでなくOpenQasm 3でもサポートされるようになっている。IBMによる機能解説はこちらのブログに詳しい。



Circuit Knitting と 量子サーバーレス


またIBMは、2022年の IBM Quantum Summitで明かされた2つの機能の αリリースを行ったと発表した。「Circuit Knitting」は、大きな量子プログラムを別々のピースに分割し、独立して実行できるようにする。そして、その出力を古典的なコンピュータに入力し、組み合わせて答えを出す。この方法は、1台のマシンに収まらない大きなプログラムを実行したり、複数の量子プロセッサで個別の部分を並行して実行できる場合にプログラムの高速化を実現できるという。IBMはまた、1年前にサーバレス・コンピューティングを実装すると発表した。これは、ユーザーが手動でシステムの設定方法や調整方法を指定しなくても、古典/量子のハイブリッドプログラムを実行できるようにするものだ。「サーバーレスコンピューティング」は、これを自動的に処理し、ユーザーの負担を軽減するものである。



IBM Quantum System Twoパッケージング開発の継続的な進展


また、IBMが1年前に初めて公開したのが、「IBM Quantum System Two」と呼ばれる新しいパッケージの開発である。このシステムは、量子アドバンテージの時代を迎えるというビジョンのもと、拡張性を高めるためにモジュール化を意識して設計されている。また、さまざまな異なる構成に対応するだけでなく、、複数のシステムを物理的に近接配置することで、ネットワーク化の実現を容易にする手段も提供されている。



[ Top Down Diagram of Possible IBM Quantum System Two Configurations with 1 (Left), 2 (Middle), and 3 (Right) Cryostats ]


上の写真では、クライオスタット(C1、C2、C3)が六角形で、取り付けられた羽の中に制御電子機器が配置されている。羽は、異なる数の量子ビットに必要な電子機器に対応するために柔軟で拡張可能である。また、中央と右の写真に示すように、クライオスタットを一緒に配置することで、異なるクライオスタット内の量子ビット間の通信距離を最小限に抑えることができる。Kookaburraチップでは、各クライオスタットは4,158量子ビットを保持できるので、そのうちの三つを持つ構成は12,474量子ビット以上の保持が可能となる。


IBM Quantum System 2のパッケージ化は2023年後半に予定されており、IBM Quantum Summit 2023で正式に発表される見込みである。



IBM Quantum Networkの継続的な拡大


IBM Quantum Networkの会員数が200社を超えたことを発表している。また、新たに9カ所の量子イノベーションセンターを設立し、合計34カ所にすると続けた。さらに、自然のシミュレーション、複雑な構造の数学とデータ処理、検索と最適化のユースケースに取り組んでいる19の産業界のユーザーをリストアップした。



量子安全性サービス


NISTがポスト量子アルゴリズムの最初のセットを選択した今、IBMはユーザーの量子的安全性の確保に一層重点を置くことになるであろう。数週間前にお伝えしたように、IBMは現在、Vodaphone および GSMAと共同で、モバイル携帯電話ネットワーク事業者を量子安全性に導くためのタスクフォースを立ち上げている。2022年のサミットは、このテーマを扱った初めての量子サミットであり、今後、IBMが量子安全性と量子通信の機能を一緒に売り出すことが多くなるだろう。量子コンピュータの早期導入者は、将来、量子安全通信の早期導入者にもなる可能性が高いから、これは理にかなっていると言っていい。



2024年末までに100×100に挑戦


最後に、IBMは自ら設定した挑戦的な目標を発表した。彼らは1日のランタイム内で100量子ビット、深さ100の回路のノイズのない観測値を推定できるツールを作りたいとのことだ。来年に向けて開発中の Heronプロセッサを0.1%以下のエラー率で使用する必要があると。Heronは、クロストークを低減するために、量子ビット間の調整可能なカプラなどの機能を追加し、このような向上したエラーレートを達成できるようにする予定だ。次世代デバイスでの量子ボリュームの測定が大幅に改善されることを期待したい。



まとめ


IBMは量子分野での取り組みを前進させ続けており、今後数年以内に量子中心のスーパーコンピューティングを実現するという目標に向けて、さまざまな分野で多大な努力をしている。長期的には誤り訂正型量子マシンを提供する予定だが、今回提供予定の NISQレベルの改良型プロセッサで、顧客の量子的優位性を実現することができると考えて進めている。


IBMが評価される点のひとつは、その透明性である。量子について多くの誇大広告がなされている現在、多くのユーザーは何を信じるべきか、何を計画すべきかについて迷っている。明確なロードマップを提供し、ロードマップのマイルストーンを達成することで、エンドユーザーに量子技術の実現可能性を示し、組織内で量子技術を取り入れるための投資を行う自信を与えている。


他のプロバイダーも追随して、透明性の高い取り組みをしてくれることを期待している。プロバイダーが透明性を高めるには、数百万ドルの予算や数百人のエンジニアは必要ない。これにより、ユーザーが量子技術にどのように関わるかについて、より多くの情報を得た上で考えることができ、先が見えないからと躊躇することを防ぐことができるだろう。


これらの発表をまとめたIBMのプレスリリースはこちらのリンク から、関連するブログ記事 ではこれらの技術がどのように量子中心スーパーコンピューティングのビジョンに適合するかが説明されている。また、Flickrに発表に関するいくつかの動画や写真を投稿しており、このリンク から確認できる。

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