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コラム:ロサンゼルス港で学んだ量子の教訓


[ Picture of Pier 300 at the Port of Los Angeles Showing Ships Unloading and Containers in the Storage Yard. Credit: Google Earth ]


アメリカ最大の海上ターミナルの一つであるロサンゼルス港のコンテナ・ターミナル Pier 300プロジェクト。今年初めに、SavantXFenix Marine Servicesのチームチームによって達成された物流最適化プログラムについて報告しました。埠頭では、輸送コンテナを船から降ろし、その後の集荷のために一時的に倉庫に置かれます。その後、トラックが個々の荷物を取りに来て、RTG(Rubber Tire Gantry)と呼ばれる巨大な移動式クレーンがコンテナの場所まで移動し、それをピックアップしてトラックに載せるのです。問題は、このプロセスでのボトルネックで、RTGが過度に移動してしまうこともあり、トラックがコンテナを受け取るまでの時間が長くなってしまうことです。


チームは SavantXの HONE(Hyper Optimization Nodal Efficiency)というプログラムを使い、D-Waveの量子アニーラに最適化アルゴリズムを適用し、現在、指標によって以下のチャートのように 30%から 60%の改善を報告しています。この改善は、数百万ドルの価値があります。



[ Improvements at Pier 300 using HONE. Credit: D-Wave ]


量子技術の企業が、エンドユーザーと協働するという発表はよく目にしますが、そのほとんどが研究や概念実証の段階であり、通常の業務利用には至っていません。量子コンピューティングの利用に可能性を求め、企業が実験を行うことはありますが、実際に製品化されることはないのです。私たちは昨年、「コラム:最後の1マイルは最も過酷な道かもしれない」 というタイトルで、量子アプリケーションを本番稼動させるために必要な課題について解説する記事を書きました。


そこで、SavantXのチームにインタビューして、この特定のアプリケーションがフル稼働しているかどうかを確認することにしました。結果、多くのことが分かりました。まずこのプロジェクトには、3年前から取り組んでいること。最初の1年半は初期導入のまとめであり、後半の1年半は導入の最適化に費やされていました。また、このアプリケーションは実際にフル稼働していることもわかりました。アプリケーションは継続的に物流を最適化し、1日2シフト、およそ10秒ごとに D-Waveアニーラーをコールしています。システムの信頼性はとても高く、ダウンタイムの問題はほとんど発生していないとのことでした。


これらの改善は、単に古典的な最適化プログラムを量子的なものに切り替えただけではありません。チームは、埠頭での業務のデジタルツインの構築に多くの労力を費やし、ロジスティクスを完全に理解し、どの指標が最も重要であるかを把握し、最もうまく機能するアルゴリムを見つけるために試作を繰り返しました。一例として、トラックが列をなして荷物のピックアップを待っているとき、コンテナをピックアップするために FIFOオーダーを使うのは最適な方法ではないことがわかったそうです。多くの場合、3台目、4台目のトラックを先に走らせた方が、この RTGクレーンの動きを最小限に抑えることができたからです。RTGの1日あたりの総移動量は、彼らが発見した重要な指標の1つでした。別のケースでは、到着した船の荷揚げの際に、その船のコンテナを同じ場所の保管ヤードに置くのは最善ではないことがわかりました。なぜなら、コンテナを引き取りに来た何台ものトラックが、同時に同じエリアに入り、荷物を引き取りたいと思うので、その混雑がボトルネックになってしまうからです。そこで、チームはアルゴリズムを変更し、コンテナの配置を特定の船から保管ヤード内の多くの場所に分散させました。こうすることで、複数のトラックが荷物を受け取る際に並行して処理することができます。


[ Diagram of Some of the Data Feeds and Requirements that Go into the HONE Engine. Credit: SavantX ]


さて、一つの疑問がわいてきます。量子コンピューティングを使ったことが、今回の改良の大きな要因だったのでしょうか? おそらく違うでしょう。デジタルツインを作成し、アルゴリズムを最適化し、港のオペレーション担当者が使用する手順にプロセスを統合する作業、これらの改善が重要な要因となったのではないでしょうか。チームは同じ結果を得るために古典的な最適化プログラムを使用できたでしょうか? かもしれません。このチームは、世の中にある最新の古典的な最適化ソリューションをすべて網羅的に分析したわけではありません。それでも、彼らが D-Waveアニーリングソリューションを選択したのは、それに最も精通しており、彼らのニーズに適した仕事を提供したからです。


量子プロバイダーにとって、古典的アルゴリズムに対して優位性を持つことは、必ずしも収入を得るための絶対条件ではない、というのが教訓かもしれません。さらに、エンドユーザーが量子ソリューションを簡単に使えるようにすることで、それが価値を満たすものである限り、古典的なものよりもいくつかのビジネスを優位にする可能性もあるでしょう。エンドユーザーにとっての教訓は、ソリューションを古典的なものから量子に移行するだけでは十分でない可能性があることです。量子技術の活用が期待される様々な問題に対して、専門家と連携し、システム全体の中でどのように量子技術を位置づけるかが重要になるでしょう。



このプロジェクトに関して、追加情報を提供するいくつかの優れたドキュメントとホワイトペーパーがあります。興味のある読者にお勧めしたいと思います。


D-Waveは事例を公開 しています。SavantXは、14ページのホワイトペーパーを LinkedIn に掲載しています。HONE softwareのページは、こちらのSavantXのページ で、また、D-Waveと SavantXは、2022年5月にこのプロジェクトに関するウェビナーを開催しており、その録画はこちらのYouTube で見ることができます。

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