By Yuval Boger
量子コンピュータが、自社のビジネスを大きく変化させる可能性を認識した企業は、量子情報科学の博士号を持つ人材を採用しようとします。博士号取得者は、量子の専門家であり、知識や経験を備えているため、企業の量子プログラムを加速させることができると考えられているからでしょう。しかし、そのような人材の多数採用は、現実的なアプローチなのでしょうか?また、他にはどのような選択肢があるのでしょうか?
量子博士の雇用に関する課題の一つは、まずその数が十分でないことです。マッキンゼーの「Quantum Technology Monitor」('22年6月号)によると、'21年12月にアクティブな量子コンピューティングの求人情報は851件。毎年290人の量子技術卒業生だけが、多くの訓練を必要とせずにポジションを埋めることができるといいます。さらに同報告書によると、量子技術の修士号を取得できる大学は米国で12校(世界では合計29校)しかなく、卒業生の数がニーズと同じように急速に増加することは考えにくいとも。
懸念はそれだけではありません。企業は、オプション価格、化学シミュレーション、サプライチェーンの最適化など、特定の課題に対する量子ソリューションを追及するために、量子チームを構築しています。量子情報の卒業生達が、このようなビジネスの複雑さをどれだけ早く理解できるでしょうか?例えば、ハイエンドのファイナンスに精通していたとしても、社内の政治を操り、組織の支持を得るための人間関係や対人スキルは持ち合わせていないかもしれません。また、同業者との関係も希薄なため、他の組織で学んだことを活用するにも限界があるでしょう。
すでにビジネスを理解し、組織内や各業界にコネクションを持つ社内の科学者・エンジニアに量子トレーニングを提供し、スキルアップを図ることも可能でしょう。量子コンピュータはホットな話題であり,私の経験では,多くの人が量子トレーニングに参加することに高いモチベーションを持っています。現在は初心者から上級者まで、多くのオンライン(時には無料)コースが用意されています。
さらに、高水準のライブラリや抽象化レイヤーの出現により、量子コンピュータの構築方法の詳細を習得したり、複雑な低レベルのコーディングに頼ったりしなくても、有用な量子ソフトウェアを容易に作成できるようになりました。多くの場合、量子コンピュータの取り組みは、経営陣の命令ではなく、ボトムアップで成長していくものであり、やる気のある従業員は、学習と探求に時間を費やすことを許可されればよいのです。さらにスキルアップの提供は、従業員の定着と仕事の満足度を高めています。
他には、コンサルティング会社を使ってスキルギャップを埋めることが考えられます。BCGやデロイトのような企業は、2種類の機能を提供しています。1つ目は、経営陣の教育、有望なユースケースの特定、業界ベンチマークの提供で、企業の量子プログラムを加速させるのにとても有効でしょう。もう1つは、量子コンピューティングのコードを実際に書くことで、これは一般企業でも量子コンピューティングを専門とする企業であったも、さまざまに利点が考えられます。コンサル企業は、訓練された有能なコンサルタントを提供するかもしれませんが、企業が外部に委託する場合には、IP共有の取り決めや従業員の育成能力について心配が必要があるかもしれません。
最後に、新たな選択肢として量子APIマーケットプレイスがあります。Googleが、2点間の最適な経路を見つけるAPIを提供するように、量子APIマーケットプレイスは、最適化や乱数生成などの量子アルゴリズムを「使用するごとに支払う 」ものです。APIを利用することで、高度なアルゴリズムを実装することなく、ユースケースの実現を行うことができます。
私は、量子博士雇用を敬遠するべきと言っているのではなく、これらの選択肢を賢く組み合わせていくことを推奨しているのです。量子コンピュータは、無視するにはあまりにも重要です。外部の人材に頼ってばかりで、その進歩を遅らせないようにしてください。
著者:Yuval Boger
量子企業の経営者。元祖 Qubit Guy として知られ、直近ではClassiqのチーフ・マーケティング・オフィサーを務めていた。