以下に、先月に見た量子技術に関する興味深い研究論文の概要を記す。
Hardware
Title: Quantum control of a cat-qubit with bit-flip times exceeding ten seconds(ビット反転時間が10秒を超えるcat-qubitの量子制御)
Organizations: Alice & Bob, Laboratoire de Physique de l’Ecole normale superieure, ENS-PSL, CNRS, Sorbonne Universite, Universite Paris Cite, Centre Automatique et Systemes, Mines Paris, Universite PSL, Inria, Ecole Normale Superieure de Lyon, CNRS, Laboratoire de Physique
本論文では、ビットフリップ時間が10秒を超える cat-qubit の実装について述べる。これまでの cat-qubit の実装に比べて 4桁の改善であり、この動的量子ビットを構成する単一光子の寿命に比べて 6桁の改善である。
この研究では、ビットフリップ時間を10秒以上に保ちながら、ビット反転保護を解除しない新しい量子トモグラフィ・プロトコルを導入することでそれを実現した。この技術により、誤り訂正符号の実装が大幅に簡素化され、ショアのアルゴリズムなどに必要な量子ビットの数を 60分の 1に減らすことができる。
Title: Demonstrating a long-coherence dual-rail erasure qubit using tunable transmons(チューニング可能なトランスモンを用いた長時間コヒーレンスのデュアルレール消去量子ビットの実証)
Organizations: AWS Center for Quantum Computing, Institute of Applied Physics, The Hebrew University of Jerusalem, Racah Institute of Physics, The Hebrew University of Jerusalem, Pritzker School of Molecular Engineering, University of Chicago, Institute for Quantum Information and Matter, California Institute of Technology, Thomas J. Watson, Sr., Laboratory of Applied Physics Kavli Nanoscience Institute, California Institute of Technology
この研究は、ハードウェア効率の高い量子誤り訂正のための魅力的な構成要素として、トランスモンベースのデュアルレールキュービットを確立した。消去量子ビットを用いることで、消去エラーに対する有利な閾値により、標準的なエラー訂正よりも大きな利点を得ることができる。この技術により、コヒーレンス時間をミリ秒の範囲まで延長でき、同時にチェック時の非相関エラーをほとんど気にせずに消去エラーの中間回路検出が可能となる。
Title: Demonstrating a superconducting dual-rail cavity qubit with erasure-detected logical measurements(消去検出された論理測定を持つ超伝導デュアルレール空洞量子ビットの実証)
Organizations: Quantum Circuits, Inc., Departments of Applied Physics and Physics, Yale University, Yale Quantum Institute, Yale University, National Institute of Standards and Technology
この研究では、デュアルレール空洞量子ビットを実装し、それを用いてエラーを検出し、それを消去している。このアプローチにより、0.1%以下のSPAMエラーが実証され、空洞崩壊イベントの 99%が消去となり、位相反転エラーは 6分の1、ビット反転エラーは 170分の1に減少した。このことで、非常に効率的な誤り訂正符号の実装を可能にする。
Title: Generation of genuine entanglement up to 51 superconducting qubits(最大51個の超伝導量子ビットによる真のエンタングルメントの生成)
Organizations: Hefei National Research Center for Physical Sciences at the Microscale and School of Physical Sciences, University of Science and Technology of China, Shanghai Research Center for Quantum Science and CAS Center for Excellence in Quantum Information and Quantum Physics, University of Science and Technology of China, Hefei National Laboratory, University of Science and Technology of China, Center on Frontiers of Computing Studies, Peking University, School of Computer Science, Peking University
この論文では、66量子ビットの超伝導量子プロセッサを使用して、51量子ビットの 1次元クラスターステートと、30量子ビットの2次元クラスターステートを生成し、それを検証した実験について解説した。これらの量子ビットの数は記録的なものである。
Software
Title: Disentangling Hype from Practicality: On Realistically Achieving Quantum Advantage(誇大広告と実用性を切り離す: 量子の優位性を現実的に達成するために)
Organizations: Microsoft, ETH Zurich
本研究では、量子の利点を実現する有望なアプリケーションは何かを考察する。結果、超二次関数的なスピードアップを実現する量子アルゴリズムを使用する小規模データ問題が有望であるとした。要件を満たす可能性の高い応用分野としては、材料科学や化学が挙げられる。これらの技術的要件に当てはまらない他の応用分野は、高性能の古典コンピュータで実行する方が適しているかもしれない。
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原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi