SandboxAQは、以前からハイブリッドCPU/TPU(Tensor Processing Units)構成と、AI技術を活用した創薬ソリューションの開発に取り組んでいた。そして今回、AQBioSim という新しい部門を設立した。この問題に取り組むために、コンピューター科学者と量子科学者の他に、独自の医薬化学チームを雇用しており、ソリューション開発に集中する体制を取っている。同社は、サンフランシスコ大学の神経変性疾患研究所と協力し、自社技術のテストを行ってい、また、AstraZenecaやSanofiを含む早期の顧客とも連携している。
幾度となく議論してきたように、創薬分野では、化学的な合成や動物実験、人体実験に頼らずに、計算シミュレーション技術による薬剤候補の潜在的な性能を in silico(コンピュータ上)で推定することで、創薬の効率を大幅に向上させるかもしれない。最近の試算によると、製薬会社が薬のコンセプトから FDAの承認にいたるには、約13年と 25億ドル(約3,570億円)かかるとされている。
古典的な産業も量子産業においても、新薬や材料の開発におけるコスト削減や、市場投入までの時間短縮を 1桁以上実現するという期待を持った多くの取り組みが行われている。計算化学シミュレーションによって実地試験が完全になくなるというわけではない。しかし、シミュレーションの利用は、フィールドテストが必要な薬剤候補の数を大幅に絞り込み、時間と費用を大幅に節約するという点で大きな差を生み出すことができるだろう。
従来のコンピュータによる計算化学シミュレーションも、これまで長い間研究されてきた。しかし、計算量が非常に膨大になり、標準的な古典コンピュータで正確な答えを導き出すのは困難であった。また業界では、正確な答えではなくても、近似値を使用するさまざまなアルゴリズムも利用できる。これにより計算時間は大幅に短縮されるが、多くの場合、このアプローチでは適切な精度が得られない。しかし、人工知能、量子コンピューティング、および GPU(グラフィックス処理ユニット)やTPU(テンソル処理ユニット)といった、新しい古典コンピューティングアーキテクチャの持続的な改善により、状況が変わってきた。ここ数年間、GPU および TPUチップの性能は著しく向上しており、そのアーキテクチャは計算化学で使用される線形代数ベースのアルゴリズムにおいて、標準的なマイクロプロセッサよりも適している。
現状、SandboxAQ の現行製品は真の量子コンピュータは使用していないが、より大規模で高性能な量子マシンが利用可能になった際に移行する予定である。SandboxAQのアプローチの利点の一つは、特定のハードウェアやクラウドベンダーに縛られていないことだ。そのため、最適なハードウェアプラットフォームを選ぶ際に、最良のものを活用することができる。
SandboxAQ による AQBioSim 部門の新設発表の詳細については、プレスリリース を参照。
また、CEOである Jack Hidary は、CNBCテレビでこの取り組みについてインタビューを受けており、そのビデオはこちらのリンク から。さらに、SandboxAQの研究者たちは、複雑な線形代数計算にTPUを利用する方法について、より詳しく説明した技術論文をいくつか執筆している。これらの論文はこちら とこちら から確認できる。
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原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi
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