By Michael Biercuk
最近は、誰もが口にするようになった「量子コンピューティング」。投資家や大企業、政府機関、金融や防衛、物流、医療など、世界を変える新しい能力の可能性に興奮しています。
難解ではありますが、本当に知るべきことは単純です。それは完全に世界を変えて、今は想像できないような方法で人々の生活をより豊かにします。最初にコンピュータが登場したとき、 Netflixや Amazonを想像できなかったのと同じように。
量子技術は、電気を活用した19世紀と同じくらい、21世紀において変革的な存在となる可能性があります。
量子コンピュータの分野には神話があります。「winner-takes-all (勝者総取り)」。これは量子コンピューティングにとっても、 現在のコンピューティングのような広い分野にとっても同じことです。従来のコンピュータ業界の巨大企業を考えてみてください。Intel、AMD、Meta、Microsoft、Google、Apple、Dell、Salesforce、Amazon……分野が広大であるため、多くの巨大な成功が生まれています。
「Winner-takes-all」の神話はどこから来たのでしょう?
VC(ベンチャーキャピタル)による量子技術分野への投資により、「Winner-takes-all」のマインドセットが生まれたのではないでしょうか。VCの経済学はシンプルです。幅広いポートフォリオに投資し、少数の大きな勝利に賭けること。一握りの企業が100倍以上の収益を上げれば、ポートフォリオに含まれる多くの完全な損失と、プラスマイナス0の状況を相殺できるわけです(このモデルについては、Main Sequence VenturesのPhil Morle氏による簡単な解説 をご覧ください)。
知っての通り、これは巨大な勝利をもたらすことができ、シリコンバレーとより広いグローバルなテックセクターの成長の重要な要素となってきました。しかし、一握りの超巨大な勝利が必要とされる経済モデルに過度に頼ることは、歪みを引き起こす可能性があります。
そして量子コンピューティング分野ですが、私たちは産業の歴史的な流れに類似した歪曲効果を見ているのでは? と考えています。
投資家の関心の高さにもかかわらず、新興量子産業に関する説明はどちらかというと一次元的であり、量子ハードウェアと量子ソフトウェアの間で単純にセグメント化されており、それぞれの初期の動きがこの分野を支配する可能性が高いと見ています。量子産業のより慎重な見方は、それよりも広範な影響と価値の獲得の可能性がある別の道を示しています。
量子産業の総合的な価値を理解するには、現在の様々なプレイヤーを、既存のコンピューティング、およびソフトウェア分野で既に存在する層と照らし合わせる必要があります。
量子コンピュータハードウェアを構築するチームは、システムへのクラウドアクセスを可能にし、これにより、彼らはInfrastructure as a Service(IaaS)としてのクラウドと連携するようになっています。
アプリケーションやアルゴリズムの開発、開発ツールにフォーカスしたチームは、アプリケーションのSaaS(Software as a Service)になぞらえて、イノベーションをクラウド上の量子コンピュータに接続し利用できることに重点をおいています。
Q-CTRLは、量子インフラストラクチャー・ソフトウェア分野の開発を先導するカテゴリー定義事業であり、「ベアメタル」IaaS量子プロセッサーとSaaSプロバイダー間のリンクを提供します。
AWS、Microsoft、IBMなどのハイパースケーラー企業は、エンドユーザー向けのサポートクラウドプラットフォームを構築しており、これは Cloud Platform as a Service(PaaS)に準拠しています。
より細かなセグメンテーションは、大規模な成功の可能性をより多く提供することがすぐに明らかになるでしょう。
過小評価されていますが、これらの各セグメント内でさえ、多くの勝者が現れるチャンスがあります。Amazon と Microsoftは主要なクラウドコンピューティングプロバイダー(PaaS) として、また Dell と Lenovo は、サーバー製造業者(IaaS)として共存しています。Salesforce、Meta、Netflixはアプリケーションソフトウェア(SaaS)を、Juniper Networks、Cisco、そして VMwareは、これらすべてのサービスが動作するために必要な重要なインフラストラクチャーソフトウェアを提供しています。これらはすべて数百億ドルの価値がある企業です。
量子コンピューティングの将来は違うというのでしょうか。
この一般的な観点に加えて、国の主権技術の問題も加わります。政府が不利な立場にある企業に資金を注入し、地域の量子能力を確保しようとするため、結果として勝者は数多く登場するだろうと考えるのは自然です。
Q-CTRLは、量子産業において最初に登場した「量子基盤ソフトウェア」プロバイダーです。VMwareにたとえると、同社の「量子基盤ソフトウェア」は、量子コンピューターのハードウェアを仮想化して、基本的なハードウェア特性と実際の量子計算能力との関連性を無くすことができます。これにより、性能が大幅に向上し、ハードウェアの利便性、費用対効果、相互互換性が拡大され、エンドユーザーやアプリケーションチームの実用性が向上します。
インフラストラクチャのソフトウェアは、他のソフトウェアチームが自社の知的財産の価値を引き出し、クラウド上のハードウェアインフラストラクチャの価値を高めていきます。
最初期には、量子ハードウェアのチームはこれらの課題に自ら取り組むことを目指しました。量子産業における100%垂直統合のパラダイムは、2つの理由から崩れつつあります。1つ目は、ハードウェアの開発には特殊な知識・技術が必要であり、従来、ハードウェアを作るのが得意なチームは、優れたソフトウェアを作るのに苦労してきました。2つ目には、量子ハードウェアの構築は十分に困難であり、このような最先端マシンの設計、構築、運用、応用におけるすべてのイノベーションが、単一の組織から生まれることを期待するのは合理的ではありません。
クラウドアクセス可能な量子コンピュータの登場により、この傾向は益々大きくなり、専門のプロバイダーが基礎となるハードウェアを開発する必要なしに自社の技術を開発・テストできるようになりました。
Q-CTRLの大きな付加価値は、まさにこのような集中した専門性にあります。同社は、量子制御工学という技術分野において世界最大の専門家チームを運営しており、これを独自の基盤ソフトウェアの提供に変えています。これは革新的な取り組みであり、当社の主要な価値提供の一つです。量子コンピュータのハードウェアに対して、構築するチームですら驚かせるようなことを可能にすることができるのです。
クラウドセキュリティソフトウェアと同様に、ミッションクリティカルなタスクは特別な知識を持つ、専門のチームに任せるのが最善です。勝てない理由があるとは思えません。
次に向けて最も大きなリスクは、無自覚によって野心を抑え込まれてしまうことです。1つ、または2つの勝者だけが出るというストーリーを描いてしまうと、多くの機会を手放すことになるでしょう。
※著者紹介
Michael Biercuk:
Q-CTRLのCEO兼創設者であり、シドニー大学で量子物理学と量子テクノロジーの教授を務めている。
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原記事(Quantum Computing Report)
https://quantumcomputingreport.com/
翻訳:Hideki Hayashi